「日本の医療」―統制とバランス感覚― 池上直己 J.C.キャンベル 中公新書 1314 699円1996年8月25日初版 1997年5月30日6版
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- もう3年前に出版された新書ですが、指摘されている日本の医療と行政の枠組みには変化はなく、
いまだ本書の価値には無視しがたいものがあります。
日頃診療という医療現場の抹消において足掻いていると、ともすれば「木を見て森を見ず」と
いう状態に陥りがちであり、自分がどのようなパラダイムの中で苦闘しているのか見失ってし
まいます。
本書は、混迷する医療の現状において、理想的な医療の実現を妨げる本当の敵は何なのか?
また、頼るべき本当の味方は誰なのか?今後何をするべきか?しなければならないのか?
明快かつ鋭利な分析により多々教示してくれる好著です。
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「さよならダーウィニズム」 池田清彦 講談社選書メチエ120 1,555円
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- 現在の進化論の主流はネオダーウィニズムと呼ばれる学説で、ダーウィンの自然選択説と
メンデルの遺伝学説を融合させたものです。ネオダーウィニズムではDNAの変化が偶然起こり、
これが原因となって、生物の形とか行動が少しだけ変化し、其の変化のうち、環境に一番適したものが
自然選択されて生き残り、その遺伝子が徐々に優勢になっていくと主張しています。
しかし、ネオダーウィニズムではいくつかの事例について説明ができないことが判ってきたそうです。
例えば人間の目をつくる遺伝子が発現すれば人の目ができるわけですが、人の目をつくる遺伝子を
ショウジョウバエに導入し、強制的に発現させると、ショウジョウバエの脚や触角に目をつくることが
できます。しかし、その目は形態的にショウジョウバエの目、つまり複眼であって、人の目の形態では
ありません。遺伝子がまったく同じでも何らかの拘束性があって、人間に目を4つも5つもつくることは
できないし、ショウジョウバエに人間の目をつくることはできません。これは遺伝子が生物の形態を
決定するというネオダーウィニズムの概念とは矛盾しています。目の進化ではDNAが変わらないのに形が
変わってしまいます。其の他にもダーウィンの自然選択説への反証の事例が多く取り上げられています。
このような現象を理解する進化論として提唱された学説のひとつが、構造主義進化論です。
構造主義というと、すぐにレビ=ストロースやソシュールの難解な哲学を思い浮かべ、辟易される諸兄
も多いのではないでしょうか?
筆者はコトバとは何らかの同一性で世界を切り取ることだと言います。
本書は、生物を記号論的に世界を解釈している高分子の集合体であると定義し、構造主義的進化論に
ついて解説していますが、現代進化論のひとつの潮流を知ることができるとともに、構造主義という現代思想
上のひとつの大きな流れについても、平易に学ぶことができる好著であります。
秋の夜長、じっくりと哲学することも、またおもしろいかもしれません。
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「墜落遺体」 飯塚 訓 講談社 1.500円
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- あの忌まわしい、航空機史上最悪の事故から今年で14年になります。
著者は、警察官として、日航機123便で亡くなった520名の亡骸と
対面しました。身元確認の責任者として数千人の遺族の悲しみの場に立ち
会ったわけです。その時の事実を風化させてはならないという思いでこの本は上梓されました。
重いテーマですが、著者の人間愛に満ちた文章は感動的です。
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「仙人の壷」 南伸坊 新潮社 1,400円
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- 古代中国の伝奇、奇談から16篇を選んで、独特の味のあるイラストとエッセーで纏めた一冊。
締切りに追われる仙人とか、相撲を挑む黄金の精とか、突き放したような終わり方をするのが独特。
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「閉じこもるフクロウ」 町澤静夫 AERA BOOKS 952円
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- 著者は文学部心理学科を卒業後、医学部を卒業。精神科医。この手の解説本をいくつも
書いています。回避性人格障害、妄想型人格障害、自己愛性人格障害、分裂病質人格障害、
演技性人格障害、反社会性人格障害、境界型人格障害などについての記述がわかりやすく、
読みやすい。
人間を正常か異常か、簡単に分類できないところがテクノストレスに満ちた現代の宿命です。
たいていの人は、だいたい正常だが、少しだけ壊れているという認識を持たせてくれます。
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「なぜ日本は没落するか」 森嶋通夫 岩波書店 1,600円
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- 森嶋通夫氏は17年前に《なぜ日本は「成功」したか》という著書を著わしていますが、その同じ著者が、2050年の日本社会について未来予測を行ったのが本書です。
マルクスは経済が社会の土台であると考えましたが、筆者は社会の土台は人間であり、経済はその上部構造のひとつであると考えています。
従って、2050年時点で日本の中核を担う日本人の人間的な資質そのものが、その時点での日本社会の興亡を決定すると主張するわけです。
このような観点から、現在3歳、13歳、18歳の日本人の50年後の資質を予測することにより、彼らがそれぞれ55歳、65歳、70歳になって、その頃の官僚のトップ、会社社長、政界の重鎮になっている日本社会を予測しています。
その結果は、皆様が予想されるように惨憺たるものであり、日本の将来にはただただ暗澹たる思いを感ずるばかりです。ただ、しかし、それだけだと、本書も単なる老人の嘆き節になってしまうわけですが、筆者はちゃんといくつかの処方箋も提示しております。
その処方箋が本当に有効なものかどうかはさておき、今、大切なことは自分自身で考える能力を持つ
人材を育てる教育であるという主張には誰もが賛成されることでしょう。
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「川が死で満ちる時 And The Waters Turned To Blood」 ロドニー・パーカー 渡辺政隆・大木奈保子訳 草思社 2,500円
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- 21世紀を特徴づけるキーワードのひとつは情報社会ですが、忘れてはならないもうひとつのキーワードは環境問題です。
そんなわけで、今月はちょっと毛色の変わった、ドキュメンタリーをひとつ選んでみました。
これは簡単に言えば、フィエステリア・ピシシーダと呼ばれる恐るべきプランクトンにより引き起こされる一連の疾患についてのルポルタージュなのです。
しかし、その展開の意外性は並みのサスペンス小説を凌ぐものがあり、これが現実に起こっている事件なのだと考えると
何か恐ろしいものを感じさせます。
湖や川が産業排水や生活廃水により、富栄養化し、魚を襲って殺す前代未聞の肉食プランクトンが異常増殖する。そして、川の水に触れた人間にも感染し、重篤な神経症状を引き起こす。
この、プランクトンが日本に上陸しないことを祈るばかりです。
奇病の原因がフィエステリアであることを発見した、水生植物学者ジョアン・バークホルダー博士が硬直化した行政機構と
闘う姿にも、なぜか他国の話とは思えないものがあります。
人間は自然界から見れば、際限無く増殖していく癌細胞のようなものでしょう。叡智を持って、環境に対する負荷を最小限にする配慮を絶えず模索していかないと、想像もつかない方法で人類は復讐されることになります。
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