| ■ 今月のちょっといい本 |
身体感覚を取り戻す 腰・ハラ文化の再生著者:斉藤孝
この本の中の「歩くという技」「自然体で立つ技」という章を、待ち合い室の数人の患者さんに読んでもらいました。そもそも日常の「歩く」「立つ」を、「技」としてと位置付けるところからして新鮮じゃあないですか! 読み終えた本を、ありがとうございましたと返しに来る患者さんの顔が一様に穏やかで、さわやかな顔に変化したのが見て取れたことをお知らせいます。 さて私たちは、「腰が据わっている」や「肚(はら)ができている」や「地に足がついている」あるいは、「からだに一本しっかりと背骨がとおっている」などの言葉をしばしば用いますが、これらのことばの理解には身体が感受する感覚の経験の裏打ちが必要であること、そしてその経験が乏しくなってきていることをこの本は思いあたらせてくれます。 ‥‥(本文より)最近、自己の存在感の希薄化がしばしば問題にされる。自分がしっかりここに存在していると感じられるためには、心理面だけでなく、身体感覚の助けも必要である。現在の日本で、自分のからだに一本しっかりと背骨がとおっているということができる者はどれだけいるであろうか。あるいは、「腰が据わっている」や「肚(はら)ができている」や「地に足がついている」といった感覚を自分の身において実感できている者はどれだけいるであろうか。‥‥ 掲載されている写真がなんといってもすばらしい。幕末から明治そして昭和初期、大戦前後の平均的庶民の日常が写されていますが、そこに写されている人々のたたづまいの見事なことといったら。私自身の身において実感している「腰が据わっている」「肚ができている」「足が地についている」は、彼等と比べると明らかに希薄だと感じ取れました。若い世代ではもっと希薄化していることはわが子を見るまでもなく明らかであります。 ‥‥(本文より)2000年の日本は、一種カラダの博覧会である。八十代でも背筋がシャンと伸びている体もあれば、十代でもジベタにへたり込むカラダもある。体にはもちろん個人差がある。しかし、トータルな傾向として、足腰が弱くなり、からだの中心軸が失われてきつつあることは明らかではないだろうか。・・・・・・「腰ぬけ」「へっぴり腰」「腰くだけ」「及び腰」「逃げ腰」「弱腰」「肚がない」「肚が決まらない」「腑抜け」(著者は日本の伝統的身体文化を<腰肚文化>として論を展開している)などは、身体に中心感覚あるいは中心軸の感覚ができていないことに関する激しい批判の言葉である。‥‥ 著者はあえて当著書のなかでは触れてはいませんが、今の社会の混迷もこの中心軸の喪失が根本にあると直感した次第です。 中心感覚を身体感覚として感じる文化とはどのようなものか、そしてこうした文化の衰退を、ただ憂うのではなく、どのように取り戻すべきか21世紀の身体はどうあるべきかを筆者の実践を織りまぜて論じているのが前向きで元気をもたらしてくれます。 |
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| エレガントな宇宙/超ひも理論がすべてを解明する The elegant universe / superstrings, hidden dimensions, and the quest for the ultimate theory 著者:ブライアン・グリーン / 林一・林大訳
深い知識と洞察は、人の関わる世界の地平線を限りなく広げ、同じ空間と事象に生きていても、まったく異なった次元の高みと発想から世界を眺めることを可能にするため、例え同じ長さの人生を送ったとしても、実質的にはより長い時間生きたのと同じ結果を得ることができます。全米ベストセラーの本書は、アインシュタインが時間と空間について考察した特殊相対性理論と重力を取り扱った一般相対性理論を、難解な数式を一切使わずに、鮮やかに直感的に理解させ、また極微の世界を取り扱う量子力学についてその不思議さを解説してくれます。ここで読者は、銀河やブラックホールなど大きなスケールを扱う相対性理論が、極微の世界を確率論的に記述する量子力学との間に本質的な矛盾を抱えていることを知り、これが現代物理学の中心命題であることを教えられます。 「あらゆるものが不確定性原理につきものの量子的ゆらぎをこうむる。重力場さえ例外ではない。注目すべき空間領域を絞っていけば、益々大きな変動が現れ、超ミクロのスケールでは空間は泡立ち、荒れ狂って、ねじれた形をとる。量子的泡と呼ばれるこの状態では、左右、前後、上下というなじみ深い概念が(さらには、過去と未来の概念さえ)意味を失う、なじみのない宇宙の領域を指している。一般相対性理論の中心的原理である凹凸のない空間幾何学の概念は、量子的世界で起きる激しい揺らぎ、不確定性原理と真っ向から対立する。」 一般相対性理論と量子力学の矛盾を解消し、この世にある4つの力(電磁力、陽子と中性子を原子核内部に詰め込んでいる強い力、ウランやコバルトの放射性崩壊を引き起こす弱い力、重力)をすべて単一の理論で説明できる大統一理論を物理学者は探求してきました。その結果、有望な仮説として発展してきたのが、超ひも理論であり、その発展型であるM理論です。(MはミステリアスのM) 超ひも理論によれば、宇宙を構成する基本構成要素は点粒子ではなく、振動する限りなく細い輪ゴムにいくらか似ている小さな一次元の糸状のものだそうです。ひもの異なる振動パターンが電子やニュートリノなどの様々の粒子の質量と力荷の違いを決定します。超ひも理論の描く世界は、驚異に満ちた宇宙で、我々がなじんでいる3次元+時間軸宇宙は実は11次元からなる宇宙の一部に過ぎないと説明しています。多次元宇宙論など、とても感覚的には追従できない宇宙観ですが、本書を読み進めば、現在進行形で行われているアインシュタイン以来最大の理論物理学の飛躍の一端に触れることができます。知の冒険にでかけたい諸兄に是非お薦めしたい近年稀に見る名著です。 |