| ■ 今月のちょっといい本 |
人口減少社会の設計 幸福な未来への経済学著者:松谷明彦・藤正 巖
本書の概略:『日本において、一人の女性が一生に産む子供の数は減少し続け、最近とうとう1.33人になった。出生率低下の原因は、教育費の高騰と初婚年齢の高齢化と言われている。 わが国の人口は2006年ごろピークを迎え、その後急速に減少し、21世紀半ばには、1945年の人口である8000万人を割り、21世紀末には、江戸時代末の3000万人程度まで減少する。 労働時間あたりに買えるものが多ければ幸福な社会と考えた場合、人口増加期の日本は幸福ではなかった。(人口増加期=経済成長率が高い時期、GDPは労働人口に一人当たりの生産高をかけたものだから、とてつもない生産性向上がなされないかぎり、普通は労働人口が減ればGDPは減少する。)その理由は、企業が儲けのうち賃金に回す労働分配率がドイツ・フランスを100とした場合、89.7と低く、また物価が高いために、購買力平価による1990年代の労働時間当たりの所得は、ドイツ・フランスを100とした場合、72.1にすぎなかった。つまりドイツやフランスの労働者が100時間働いて買えるものを、日本の労働者が買うためには139時間働かなければならず、アメリカとの比較では147時間働かなければならない。日本的経営の特徴である終身雇用・年功賃金制は人口構造がピラミッド型であった戦後には有効であったが、タマネギ型に移行した現在では、企業にとっては重荷でしかなく、大量に抱え込んだ中高年が賃金総額を上げる原因になっており、リストラを行う大きな理由になっている。従来、日本企業は売上高と市場占有率を重視し、利益率を軽視する傾向が強かったが、それが労働生産性を低下させる要因になっている。欧米企業は資金を株式により調達し、短期的な利益をあげることを強いられるが、日本企業は銀行からの借り入れが主体であり、それが終身雇用制度、売り上げ至上主義と結びついている。また欧米各国にくらべ日本には労働生産性の高い投資機会を生み出す力が不足している。日本の生産年齢人口の減少は1996年にすでに始まっていて、今後十数年間の日本の経済成長率は先進国の中で最も低くなり、いかなる経済政策や企業経営をもってしても避けることはできない。人口が減少し経済が縮小する中で、有権者の人口の山が次第に高齢化するために、政策は企業に重点を置く政策と退職後の生活に重点をおく政策に多極化する。縮小経済における自由競争とは、自分の企業をいかに適切にスリム化できるかという競争になる。(本文より要約)』 人口減少社会の医療制度 『医療や介護の供給機能は社会保障の一部として先進国では避けてとおれない社会の基礎構成部分である。人口高齢化社会は高齢者社会でもあるため、医療や介護システムの整備は将来の社会を安定に保つための必須条件である。‥経済成長が減速し、下降局面に入ると、医療や介護の費用をどうまかなうかが政策上の大きな課題になる‥』『国民すべてに最先端の医療技術を提供することは、現在の公的医療制度の中では不可能』『高齢社会は30〜40年前から予想されたことで、‥この結果は行政の見通しの甘さと医師や健康保険の支払い者側の見通しの甘さを示している‥』『30年間で65歳以上の人口は5割り増し近くになる。これに比べて生産年齢人口は6割以上から5割強に低下する。45%の人が55%の人を支える状態が30年間維持される。』『収支のバランスのとれる医療費の成長率は年率1.5%程度である。』『何らかの医療受診制限か患者の個人負担の増加がなければ医療費の家計に与える負担割合が急速に高まることになる。』『これからの半世紀医療技術の進歩は医療費の増大を伴うことになる。』『現在、医療費の構成割合の32.2%は税金でまかなわれている‥2030年には医療費の64.8%(46兆円)が自費診療となる。その大半は任意保険でまかなわれることになる。供給者側は任意保険と公的保険が混在する混合診療をひどく嫌うが、他に方法はない。』『最近よく言われる「医療費の成長率を国民経済の成長率の枠内にとどめる」場合、年率2%以上の技術進歩率を維持するには、病床削減や診療制限による需要の削減と、医薬品など医療システム外部からの医療費増加要因の削減と、労働集約的医療構造を変えなければならなくなるだろう。』『医療需要を減らすには、支払い方式の変更(定額医療)が挙げられる‥薬剤単価も減額しなければならない。』『2030年には総介護費は10兆円を超えるが、それは総医療費の四分の一程度で、総医療費に加算すると国民所得の17.1%を占めることになる。』 つまり医療システムを維持するには、受診抑制、定額診療、混合診療と民間保険への依存が必要で、なるべく人手をかけないで治療しなければならないと言っています。近い将来、命を金で買う時代になるでしょう。高級官僚や政治家、企業経営者には有資産者専用の医療、充分な民間保険料を払えない者には、貧民救済的な最低限の公的医療があてがわれます。命の帰趨も金次第、地獄の沙汰もなんとやらというわけで、無為無策でやり過ごしてきたきたつけの支払いが、これから一気にやってきます。 |