■ 今月のちょっといい本
麗沢の契 歯科医師が個性的に生きるために
著者:井坂義昭(霄光月)
発行:歯科時報新社
定価:\2,000
ISBN

埼玉県国保医療課指導監査専門医である井坂義昭氏が長年培われた慧眼と深い洞察力で、保険制度を鋭く考察された論文集です。前半はプラトンやニーチェが登場する独特の「井坂哲学」に立脚して展開される保険制度論、後半は氏が霄光月のペンネームで平成10年11月から平成14年2月にかけてデンタルタイムス21に執筆、連載されたコラム「麗沢の契」が収載されています。氏は混合診療推進論者であり、また特定療養費を拡大する方向に歯科の活路を見出されようとしています。氏が提案される「保険分還付方式」とは、窓口徴収金額を自由に歯科医院が設定して患者さんに規定の領収書を発行し、患者さんは領収書を保険者に提出し、受けた診療の保険に該当する金額を保険者より返還してもらうという「療養費払いと差額の併用」方式です。氏は同方式には歯科医療機関の地域差や歯科医師の技量の差が点数に反映されない現行保険点数制度の弊害を解消する利点があると力説され、非常に大胆で興味深い考え方だと思われますが、多分現状では国民各層の理解を得ることは困難であると思われます。しかし現在の保険制度の枠内に留まる限り、歯科医療の将来に展望が開けないことは明らかであり、何らかの打開策を模索しなければならないことには異論のないところであり、問題は過去に様々の問題を派生し、歯科医師の社会的評価を失墜させた差額徴収時代の亡霊が再び甦るような事態にならないかという懸念にあります。その時代の状況に適応した優れた制度は良い結果を生み、そうでないシステムは破綻していきます。日本全体がその全存在をかけた大転換を迫られている今、あるべき歯科医療制度への真摯な提言が、本書のように陸続として歯科界自身から湧出してくることを深く願っています。私たち自身の未来を自分で考えることができないなんて哀しいじゃないですか。今産業界を中心にして直間比率の是正が声高に叫ばれ、重篤な日本病にかかった国家財政の辻褄を合わせるために、継続的な消費税の改定が決まりつつあります。将来的には16%まで消費税は拡大される予定らしいですが、過去の消費税増税時に医療費は消費税上昇分を改定内容に充分反映されなかったことを思い起こさなければなりません。もし16%まで消費税が上昇する過程で、不可避な経費上昇分を吸収できない医療費改定が繰り返されるとしたら、それは形を変えた点数切り下げであり、安全で信頼できる医療が成り立つ適正な経営環境が破壊されてしまうことを意味します。あるべき医療制度論を医療者全員がもっと激しく論議し、大きなムーブメントに育てる努力が必要とされています。