「奴隷の国家」
著者:ヒレア・ブロック/Hilaire Belloc,Servile State
訳・解説:関曠野
発行:太田出版
定価:2000円(+消費税)ISBN4-87233-544-9 C0098
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第1章 基本定義 大半の家族や個人が、少数の家族や個人を利するために働くことを実定法により強制されている社会体制を奴隷国家と呼ぶ。自由な人間は労働を拒むことができるが、奴隷には意に染まぬ労働を拒む力も手段もない。ただ、奴隷を保護する社会システムにその生活を左右され、生存の安全を保障されている。たとえ人間が一部の時間に働くことを強制されるだけで、その他の時間には自由に取引したり富をためることができたとしても、奴隷国家は確実に存在する。この場合、彼は相対的な(リガーダント)奴隷である。たんなる生存かそれより少しましなものだけが奴隷に保証されるということが奴隷制の本質をなしている。
第2章 ヨーロッパ文明はもともと奴隷制であった。奴隷を生んだのは貧困であった。ヨーロッパ人が信仰と呼ばれる重要な道徳上の実験に着手する前までは、何千年にもわたって奴隷制はまさにヨーロッパの本性を為していたのであり、今日多くの人はこの実験は完了して放棄されたと思っているが、信仰が衰退するとき、古く基本的な奴隷制度が必然的に復活してくる。
第3章 奴隷制度の一時的な消滅。教会のいかなる教義も奴隷制を非難することはなかった。しかしローマ社会における教会の発展に伴い、また交通網や公権力が崩壊した8世紀~10世紀に移るに従い、一定の慣習で定まった分以上を領主は奴隷に要求しないようになった。11世紀に暗黒の時代から真の中世に移行し始めると、奴隷を意味したservusセレウスという言葉に奴隷本来の意味は失われた。11世紀と12世紀初頭、十字軍とノルマン征服の初期中世時代の農奴は、すでに農民に近い。中世社会のあらゆる動きは、人々が資本と土地を所有することで経済的に自由であるような国家の確立に向けられていた。しかしやがて起きた産業革命を契機とし、恐ろしい道徳的無秩序がとって替わり、それは資本主義と呼ばれた。その原因は、資本主義そのものではなく、少数者の邪悪な意志と多数者の無気力にある。
第4章 分配型国家の挫折。19世紀イングランドでは、生産手段は少数のグループの占有するところのものになり、大多数は基本的経済的自由を失った。
第5章 資本主義国家は完成に近づくにつれ不安定になり、市民の精神的緊張は増す。この緊張は、資本主義社会の現実と我々の法と伝統の道徳的基盤との間の矛盾から生ずる。資本主義国家は二つの永続的で安定した社会状態の間の過渡的な状態に過ぎない。
第6章 資本主義は、その不安定性から別の体制に向かおうとしている。その選択肢は3つしかない。すなわち奴隷制、社会主義、財産制度の改変である。所有権のオプションとしては、第一に社会主義または集産主義があり、第二に所有者制または分配型国家がある。すべての社会主義的改革は当初から必然的にその本来の進路から外れており、財産の再分配を伴う分配型国家は実際的でないとして斥けられる。
第7章 集産主義を試みる行為の結果生まれてくるのは全然集産主義ではなく、多数者の隷属状態と少数者における現在の特権の確立即ち奴隷の国家である。
第8章 改革派も改革される者も等しく奴隷の国家に向かう。
第9章 法律や社会統制により、社会の資本家への隷属が深まりつづけている。
結論 16世紀にキリスト教文明の連続性を捨て去った諸社会は、現在のところ奴隷身分の再建に向かって進んでいる。今やはっきりと失敗した理論的社会主義が現実の生ける社会を創り出す可能性はない。信仰はその内奥の導き手としての地位をヨーロッパ人の心の中に取り戻すと期待している。
訳者解説 これはマルクス主義の本ではない。ベロックはキリスト教的ヨーロッパが千年以上にわたって築き上げてきた法とモラルの伝統を擁護する立場から資本主義を批判する。すべての人間が実際に法的政治的に権利を保障された自由な市民でありながら、他方で生産手段に関して、少数の所有者と大多数の非所有者に社会が分裂していることに現代社会の根本的な矛盾があり、この矛盾が資本主義を不安定にする。現実にそぐわない理念を国法の原理とする社会は安定した健全な社会ではありえない。近代社会の核心には「自由から支配が生ずる」というパラドックスが存在する。大量失業や極端な景気循環といった経済現象として現れてくるものは、近代社会における法の死であり、倫理的混乱なのである。資本主義の不安定性は、資本家自身にも耐えがたいものなので、奴隷国家が出現する。奴隷国家は資本主義を延命させるのと引き換えに、自由を原理とする近代法の精神を最終的に破壊する。ベロックの立場は反資本主義的自由主義である。彼の論拠は「人間は法によってこそ自由になる。」というロック的自由主義である。自由主義は資本主義により戯画化される中で、奴隷の国家の中で自滅する道を選んだ。ベロックの究極の立場は、自由な人間は自らが公言した理想に忠実に生きるべきだという思想に他ならない。そうした理想は文明の最良の遺産と伝統を継承しなければならない。民営化や規制緩和という新自由主義の政策は、資本主義の不安定性を増大させる。この不安定性は未知のギャンブル的なビジネス・チャンスを作り出す。ポスト冷戦の世界の焦点は、人間にとって自由とは何かという問題である。
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