■ 今月のちょっといい本
「朗読者」
著者:ベルンハルト・シュリンク 松永美穂訳
発行:新潮社 CREST BOOKS
定価:本体1800円 ISBN4- 10-590018-8 CO397
今、話題の一冊。前半は映画「青い体験」と同じ。15歳の少年と年上の女性、ハンナとの甘酸っぱい関係。一転。第二章においては、アウシュビッツと戦争犯罪を背景とした予想外の展開を見せる。なぜハンナは少年に、様々の本の朗読を頼んだのか?戦争のなかで、非人道的な行為は悪魔によって行なわれるのか?それとも普通の市井の人々が行なうのか?人間にとって最後に残るものは愛情か、思慕の念か、誇りか?訣別した筈の過去が、どこまでも彼女を追い詰める。まさに小説の持つ魅力を、王道から語ろうとする秀作です。翻訳文体も洗練されています。










「福祉国家から福祉社会へ」-福祉の思想と保障の原理-
著者:正村公宏
発行:筑摩書房
定価:2600円 ISBN4-480-86326-5 C0036
今、日本において、社会福祉を語ることは、反国家的な思想の持ち主とみなされるのではないかというくらい、逼迫する国家財政の前に、一番弱い分野が仮借ない攻撃を受けています。国家の衰運に対して、なんら有効な手を打つことなく、官僚化の進行と、既得権益の保護だけに血道をあげてきた政治と行政の責任は不問にしたまま、医療費改定の度に、集中的に老人医療が標的にされています。しかし、個人消費が低迷する原因の大きな原因のひとつは大多数の国民が、この国の行く末に、また自分自身の将来に強い不安を抱いているからではないでしょうか?社会保障・社会福祉はすべての国民の不安を緩和する社会的協同事業です。将来の生存権が脅かされるとき、社会の安寧と秩序は保たれるでしょうか?環境と地域社会を破壊するダム建設や山奥につくる不要なスーパー林道に、巨額の税金を投入するより、日本のスパルタ的医療環境を改善し、社会的弱者を支援する施策を強化すべきだと考えます。
本書は、国民に臨調が提示した国家像以外に、幸福を追求する未来像があることを教えてくれる好著です。「民主制」と「民主主義」を正常に機能させることが必要であり、21世紀の成熟した先進社会では、「豊かさ」を追求することではなく、均衡と安定を重視し、資源と環境の制約を重視して持続可能な生活をつくりあげること、人間の「量」と「質」の継続的再生産を確実にすることを、優先目標にしなければならないと著者は説きます。行政担当者必読の書。










「IT革命 根拠なき熱狂」
著者:柳沢賢一郎
発行:講談社+α新書
定価:840円 ISBN-06-272058-2 C0233
本書は「IT革命」という言葉の持つ、虚像と陥穽を、骨太な人間に対する考察から喝破した良書である。IT革命により、経済拡大が永続的に持続するという、アメリカのいわゆるニューエコノミー論に警鐘を鳴らし、単なるコミュニケーション技術に過ぎないITに過大な期待をかけて、薔薇色の未来像を描く危険性について、極めて論理的に詳述している。ITで本当に幸せになれるのか?人間の「知」は「知識」と「知恵」に大別できる。『「知識」とは、「ある基準のもとに体系化でき、要素に分解でき、客観的な妥当性をもった情報」である。一方「知恵」は、「それ自体がひとつのまとまった情報であって、要素に分解できないし、ある基準のもとに体系化することもできないが、それでいて人間の行動を決定的に規定する情報」である。』コンピューターの扱える情報は、知識であり、そこに限界がある。この世は合理的な知識によって、動いているのではなく、知恵が支配している。人間の行動はコンピューターのはじき出す科学的、数学的モデルには依存しない。知恵は自ら考え、行動する実践からしか得ることができず、知識があっても知恵がなければ、望ましい社会変革を達成することはできない。