エディ・ヒギンズ [piano]
スコット・ハミルトン [tenor sax]
スティーブ・ギルモア [bass]
ビル・グッドウィン [drums]
本アルバムは2001.10.2〜3、つまりあの同時多発テロ9.11の3週間後にニューヨークで録音されました。今日の共同通信によれば、テロがらみで拘束されたイスラム教徒の外国人が、数ヶ月に及ぶ理由のない拘束について、アメリカ憲法違反であり、肉体的、精神的苦痛を被ったとして、アシュクロフト司法長官やモラーFBI長官を相手に損害賠償を求める集団訴訟を起こしたそうです。アムネスティ・インターナショナルは3月に発表した報告書で、「入院中も手錠で拘束された」「外部への電話連絡は週一回だけ」「部屋の電気が一日中消されない」など、拘束者の氏名や拘束理由を明らかにせずに、無期限に及ぶ大量拘束を行っていると批判していますが、先の大戦で、日系人が味わった財産の没収と収容所生活を思い起こさせます。テロの洗礼を受けた後、アメリカの唱導する正義は、情緒的な復讐心から歪みを見せ、法規と人権が無視される傾向を示していますが、テロが「人権大国」のアメリカに与えたトラウマの深刻さに暗澹とします。一方、その惨劇の舞台であるNYで、日を置かずして、本アルバムのような古き良きジャズらしいジャズが製作されていることになにか不思議な感銘を受けます。本アルバムのどのトラックを聴いても、あの阿鼻叫喚のテロルの幻影を片鱗も感じることはできません。むしろプレイヤーは不安と緊張をかきたてる忌まわしい経験に対し、安らぎと安心感を与えてくれる表象を創造することにより、アメリカ人のアイデンティティが危機に晒されることを意識的に回避しているのではないかと思うくらいです。フュージョン全盛時代の中で、オーソドックスなスインギーなジャズプレイヤーとして登場して話題を呼んだ大型新人スコット・ハミルトンももう47歳になり、重厚な風格を感じさせながら、雄弁に語りかけてきます。
優雅でデリケートなエディ・ヒギンズのピアノプレイも味わい深く、芳醇な大人のテイストに満ちたアルバムに仕上がっています。目を瞑って買っても決して後悔しない、新しい愛蔵盤がまたひとつ誕生しました。