■ 今月の推薦盤 [JAZZ]
SONY ROLLINS / SAXOPHONE COLOSSUS
TOMMY FLANAGAN
DOUG WATKINS
MAX ROACH
些細なきっかけで、圧倒的なリアリティーを伴って忘れていた過去の瞬間がよみがえってくることがあります。二度と取り戻すことができない夏の日の記憶に、完璧なまでに打ちのめされてしまう。プールサイドの焼けたコンクリートの臭い、焼き尽くすような日差しの中を歩いた海岸沿いの国道、ボンネットバスが巻き上げる砂埃、波の荒い雨の日の海辺。40年後の現在もあの頃感じた理由のない焦燥感を懐かしく思い出します。

2曲目のYou don't know what love isの地の底から這いあがるような豪快なバイブレーションを久しぶりに聞くと、昭和30年代の東京に回帰していきます。過去は二度と戻らないが故に、何よりも貴重で輝いている。今夜はロリンズの黄金時代のアルバムを聞き比べながら、密かに追憶に浸りたい。
VDJ-1501 1956年6月22日New Yorkにて録音

STAN GETZ / BOSSA NOVA
スタン・ゲッツがヴァーブに残したボサ・ノヴァのオムニバス。ライト・ビールを飲みながら、過ぎ行く夏を懐かしむのに最適。
快いスタンダード・ナンバーが並びますが、中でもアストラッド・ジルベルトが歌う「あなたと私」「コルコヴァド」など4曲が魅力的です。
ちょっとほの暗くて、やるせないボサ・ノヴァのメロディーが、夏を惜しむ気持ちにどこまでも馴染んできます。

Tall and tanned and young lovely
背の高い日焼けした若いきれいな

The girl from Ipanema goes walking
イパネマから来た娘が散歩する。

And when she passes
彼女が通りすぎれば

Each one she passes goes "Ah"
誰もが「Ah」と賛嘆の声をあげる。

When she walks she's like a samba
娘はサンバのリズムで歩いていく。

That swings so cool and sways so gently
すごくクールに優しくヒップを振って。

That when she passes
彼女が歩けば

Each one she passes goes "Ah".
誰もが「Ah」とため息をつく。
・ つい最近ですが、この「イパネマの娘」のモデルになった女性が、商標権の侵害を理由に、アントニオ・カルロス・ジョビンの遺族から訴えられたという記事を読んだ気がします。彼女は「イパネマの娘」を名前につけたお店を開いたのでした。イパネマは、リオ・デジャネイロ南部のリゾート海岸。60年代初頭、ジョビンやヴィニシス・モライス(作詞者)等、若いボサ・ノバミュージシャン達が集まる"ヴェローゾ"という飲み屋がありました。この店の前をよく通っていたエロイーザという町で評判の美人(当時15歳)がいて、その娘を題材に作った歌がこの「イパネマの娘」だと言います。夏は変らねど、人は変る。嗚呼あの美しき娘たちは、今は何処に…
JAZZ MASTERS53 POCJ-1592 1963年2月〜3月

ROMANTIC RHAPSODY / Richie Beirach Trio
ロマンティック・ラプソディ/ リッチー・バイラーク・トリオ
リッチー・バイラーク(piano) ジョージ・ムラーツ(bass)
ビリー・ハート(drums)

全編バラードのこのアルバム、ヨーロピアン・ジャズテイストのリリシズムで満たされております。冒頭リッチーの洗練されたピアノタッチにまず一瞬心地よい緊張感。しかし、次々に紡ぎだされるそのタッチの豊かな彩に、ものの数十秒後にはすっかり心なごんでいる自分に気づくのです。ゆったりとしたテンポなのに、かくもスイングするものかという驚きは特筆もの。ベースも心憎いほどみごとです。抑制の効いた、それでいて十二分にエモーショナルなスイング感に身をゆだね、心地よい至福の時間をすごしてください。診療室のBGMにもおすすめ。
TKCV-35091 VENUS RECORDS