Weekly Objection(更新日:2004/06/21)
--- 笹井ひろふみ氏出馬せず ---

6月11日に行われました日本歯科医師連盟臨時評議員会において、86名の評議員の無記名投票の結果、賛成48、反対28、白票3、棄権7となり、日歯連盟は、笹井選挙を中止することを機関決定しました。自民党も笹井氏の公認を取り消し、本人も立候補をあきらめる決定を下しました。

長野県歯科医師会におきましては、良質な歯科医療を確保するためには、適切な設備投資、積極的なスタッフ教育、充分な感染予防対策、最新の歯科医学の絶え間ない研鑽と最善の歯科医療の導入等が必須であり、これらの諸条件を可能にするためには、歯科開業医の経営基盤の安定が不可欠であるとの観点から、日本の歯科医療を死守するために、歯科医療の代弁者として、笹井ひろふみ氏を応援して参りました。笹井氏を招いての研修会、講演会等の開催に際しまして、県歯会員の皆様に多大なるご助力を仰ぎ、応援していただいたことに改めて、心底より感謝するとともに、これらの会員の皆様の努力の一切がすべて無に帰したことに対し深くお詫び申し上げます。

良質な医療には、最低限それを支えるコストが必要になります。

現代医療の常識となっているインフォームド・コンセントですが、患者さんが自分の身体に起こっていることを充分に理解できるように医療者が説明し、患者さんは十分に説明を受けた上で、疑問点などを解消し、心から納得してその検査なり治療を受けることに同意することを指します。でも十分な説明をするには十分な時間をかけることが経営上可能でなくてはならず、それに見合う診療単価が確保されていなければ画餅にすぎません。 またEvidence Based Medicine(EBM)も、「疫学などの研究成果や実証的、実用的な根拠を用いて、効果的で質の高い患者中心の医療を実践するための事前ならびに事後評価の手技」を指すわけですが、これには、患者の抱える問題を、科学的な研究の俎上に載せるための定式化やいわゆる文献や臨床検査からのエビデンスの収集、情報の批判的検証評価が必要になり、エビデンスに基づいて、治療等を行った後も、その結果について科学的な事後評価が行われなければなりません。つまり、もし一般開業医がEBMを強く意識した診療を行おうとすれば、それなりのデータベース構築と運用が条件になるわけで、コストと時間とマンパワーがなければ実行できません。また最近、提唱されているNarrative Based Medicine(NBM)は患者さん自身の言葉で語られる患者さんの病や実人生の「物語」をそのままの姿で受け入れ、「病気」でなく「患者」を診ようとする概念であり、「証拠に基づいた客観的評価」だけでは達成することのできない「患者中心の医療」を目指す動きでありますが、これも患者さんに接する十分な時間とその時間を支えるコスト評価があって、初めて成り立つ話です。

このように良質な医療というものは、本来的にコストがかかるものであり、そのコストを誰が負担するのかという議論が行われないかぎり、存立しないものだと思われます。

歯科医療においても、もし仮に現在の75%のコストで歯科医師の職業的な使命感だけを支えに、現在より良質な国民が望む医療を実践せよと言われたら、それは無理な話で、早晩日本の歯科医療は破綻するでしょう。でもこの10年間の歯科医療費改定ではこの無理な話が行われてきたのです。薬価引き下げ分のみが医療費改定財源とされ、もともと薬価差益のない歯科は改定率が低く抑えられてきました。継続的な歯科医療軽視政策は、他の先進国で行われる歯科医療との質の格差となって日本国民を苦しめる結果となることは言うまでもないことでしょう。

医療にインフォームド・コンセントの義務があるように、政治にも国民に対するインフォームド・コンセントの義務があります。現在の医療費抑制政策が継続したとき、10年後に国民に提供される社会保障の姿はどうなるのか?20年後は?国民は現在より幸せになれるのか?なれないのか?責任のある立場の者が責任のある言葉で、一人一人の国民に語りかける必要があるのではないでしょうか?

日本が議会民主制の国である以上、ここに歯科医療界の声を国民と行政に訴える代表者が必要な理由があります。 私は、笹井ひろふみ氏を日歯政連が推さないという事態は、かえって国民に笹井氏本人自体の評価をしていただくいい機会であったという受け止め方をしておりました。イメージ的に不利な条件は山積していますが、候補者本人の資質という点からいうと、歯科医療、歯科医政、行政への理解、本人の意欲と行動力という面で、かなり好感触を感じていました。日歯政連と決別しても、日本の歯科医療を守り、国民の将来の健康を確保するために働く人材という観点で、一切のひも付きでない草の根的運動を通して、今後の日歯の在り方を含めて会員や国民と議論を深めることができれば、それ自体が日歯再生ばかりでなく、日本の歯科医療再生につながるムーブメントになった可能性があったものと考えています。

そういう意味で、今回の笹井氏立候補断念は誠に残念至極の事態であったと総括できます。


ISSHI